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『海底軍艦』(1963年 東宝映画)のあらすじと感想

 戦局利に非ず、今まさに紅蓮の炎の中で息絶えようとしていた大日本帝国。その日本を密かに出港する潜水艦があった。

 指揮するは帝国海軍にその人有りと謳われた神宮司大佐。彼とその部下達、名付けて「豪天建武隊」は戦局回天の為、ある秘密任務を帯びて一路南洋を目指した。そしてそのまま還らなかったのである。

 そして敗戦。混乱と復興の槌音響く中、時代は流れ、いつしか神宮司大佐達の事を覚える人も少なくなった頃・・・・・


 地球人類は危機に直面していた。一万二千年前、高度な文明を保持しながら、天変地異により海底へとその姿を没したムー帝国人が地上の領有権を主張。地上人達に宣戦を布告して来たのである。超テクノロジーを誇るムウ帝国に為す術を持たない地球人類。その時、敢然と立ち上がった男達がいた。そう、南洋の島に姿を消して既に二十年。遂に戦局回天の秘策たる海底軍艦こと「豪天号」を完成させた豪天建武隊である。 と、大筋ではこんな感じの娯楽特撮が本作品である。

 いやあ、今から四十年以上に撮られたとは思えない特撮技術の高さと映像的センス。数ある東宝特撮映画の中でもトップクラスだと思います。特に序盤で米海軍潜水艦がムウ帝国潜水艦の追跡任務中に水圧で圧壊するシーンや、有名な豪天号発進シーンは必見の出来。

 無論映像だけでなく、伊福部昭の音楽が場面場面で絶妙にマッチして臨場感を盛り上げている所も見逃せませんが。

 が、本作品のキモはこれらではない。勿論これら映像表現やBGMは演出としてなくてはならないものだ。が、それらもまたドラマを盛り上げる為の手段の一つ。少なくとも私はそう思っている。

 では肝心のドラマはどうか。これが・・・・・いいんですよ(笑


 そもそもタイトルともなった海底軍艦は侵略者から人類を守る為に作られたのではない。その建造目的はあくまで戦局の挽回。滅亡寸前だった大日本帝国の尖兵としてただ一隻連合軍を叩き、戦争に勝利する為に生まれた戦艦(なんせ見た目からして軍艦色塗装)なのだ。

 この、言わば妄想じみた目的の為に、軍人としての名誉も栄達も全てを捨て(註1)、ありとあらゆる困難に耐えること幾星霜。妄想が形となり、遂に夢にまで見た超兵器を完成させた時には既に戦争は終わり、自分達はその存在すら世の人々に忘れ去られていたという現実。そしてその自分達の事を知りもせぬ人々を護る為に戦う事を求められるという矛盾。

 何たる悲劇。何たる喜劇。妄執となった夢を信じ、その結晶たる豪天号が誕生した時には既に護るべき国は無く、戦うべき敵も今や日本とは同盟国。夢の結晶だけに、目覚めてみれば、其処に有るのは虚しい徒労感だけだったのである。

 当初、国連からムウ帝国撃滅への協力を要請された神宮司大佐は以下の言葉をもってこれを拒否する。
「海底軍艦は大日本帝国再建の為に存在するのであって、ムウ帝国を撃滅する為に在るのではない」

 そう、この時点でまだ彼にとっての太平洋戦争は終わっていなかった。それが現実逃避であろうとなんだろうと、神宮司大佐達はいまだ敗北を認めていない。彼らは文字通り「最後の大日本帝国海軍」として大日本帝国を復興させようとしていたのである。

 結局は神宮司真琴(神宮司大佐の生き別れの娘)や、その育ての親の元海軍技術少将などの説得によりムウ帝国撃滅の為に戦うことを決意した神宮司大佐であるが、その内心は複雑であったろう。

 それはラスト、決戦が終わった後で、捕らえていたムウ帝国皇帝(註2)が自分の国へ帰ろうと泳ぎ去っていくのを敢えて止めようともせずに黙って見送る神宮司大佐の態度にも現れていると思う。

 この時の神宮司大佐の行動を所謂「武士の情け」だけで解釈すべきではないだろう。恐らく神宮司大佐は戦に敗北し、全てを失った事を知りつつも、あくまで皇帝として自分の国を目指すその姿に自分達を照らし合わせていたのだろう。そしてそうする事によって漸く自分達が敗者である事を確認できたのではないだろうか?

 映画はここで終わっている為にその後のムウ帝国や豪天建武隊の行く末に付いては想像する他無い。その後の彼らは何を思い、何を為そうとしたのか。興味は尽きない。

 とまあ、レビューというかただの感想文になってしまったが、物語も含めて大変出来がよく、素直に楽しめる作品なのは間違いない。確かに設定は荒唐無稽だし、細かい所で色々突っ込みはあるのだが、まあ些細な問題であろう。

 東宝特撮ドラマをゴジラしか思い浮かべなかったり、子供の見るものだと思ってる方には是非お勧めしたい。きっと新鮮な驚きがあるであろう。

 あ、ムウ帝国の守護神として登場する怪竜マンダが凄い雑魚っぽかったのと、豪天号が冷凍光線以外の武器をあまり使わなかったのだけは少々不満だったかも(w

<了>

 

註1:記憶モードで申し訳ないが、豪天建武隊が日本を出港したのはポツダム宣言受諾直後、しかも独断だったような気がする。この記憶が確かなら彼らは脱走兵であり犯罪者である。また、豪天建武隊が辿り着いた孤島はいかなる地質学上の奇跡か、あらゆる鉱物が露天で手掘り出来る謎の島なのだが、実は先住民が存在する。神宮司大佐の言によれば「非友好的な原住民は一人として居らず」との事だが、これはあくまで「現在は」との但し書きがつく事には注意が必要だろう。伊403潜水艦の漂着直後、島で一体如何なる情景が繰り広げられたのか、真相は闇の中である。
註2:実は女帝である。見た目はなんだかクレオパトラのようであるが、威厳は中々のものであった。特に、武運拙く海底軍艦に捕らえられた時に艦橋で当然のように艦長席に腰掛けるシーンは物凄く(;´Д`)ハァハァ・・・じゃなかった、感動する光景であった。余談であるが、この作品に出演している俳優達は知名度も実力もなかなかの人ばかりである。クレジットを確認すれば「おおっ」と声を挙げる事請け合い。主役の高嶋忠夫が相変わらず大根なのはしょうがないとして、平田昭彦が名前すらないムウ帝国工作員23号とかかなりイイ感じです(笑