コギンス氏を徹底分析
のちにチキ号になるゼッケン「3」のレースカーをポッツ氏に売ったコギンスを演じたデズモンド・リューウェリンは、映画『007』シリーズの特種装備課課長“Q”役で知られる英国出身のベテラン俳優です。
冒頭に数カット登場するだけの脇役のわりに有名なのは、やはり007のQ役を演じたのとチキ号誕生の立役者である点でしょうか?
逆にいうと、有名なわりにあまり語られなかったコギンス氏ですが、この際本腰を入れて分析してみたいと思います。
劇中でコギンス氏の性格を語る人物はポッツおじいさんだけです。
それは「自宅が火事でも、タバコの火も貸さん」ケチ!というかなり手厳しいものでした。まあこれは個人的な感情が入っていそうなので鵜のみにはできませんが、スクラップ状態のゼッケン「3」を10シリング(現在の約7,500円相当)で買いたいと申し出た客に、「世界グランプリで3度優勝した名車だ」といって30シリング(約22,500円相当)に釣り上げた商売センスにも「火も貸さない」という堅実な性格が透けて見えるようです。
さて、僕がひとつ気になっているのは、チキで初めてのドライブに出かけたポッツ氏たちが、沼にはまったCUB1を「コギンスに始末させて」ドライブに行こうとトゥルーリーを誘う場面です。
車を所有しないポッツ氏ですが、この言葉からコギンスとは、以前から一定の付き合いがあった――見方によっては立場的に上だったとも考えられないでしょうか?
この辺のことから、ポッツ氏、さらにはおじいさんとコギンス氏の関係まで解るかもしれません。
定職に就いていないポッツ氏ですが、それでも一家の大黒柱。扶養家族を3人も抱えていますから定期的にある程度の収入は欲しいはずです。
しかし自動散髪機をはじめとする発明品では収入を得られそうにもありません。実際そうでしたし(笑)。
僕が考えるに、ポッツ氏の才能でお金になりそうなものは自動車修理の技術とダンスだけですが、本編の流れから推察する限り、現実的には自動車修理がもっとも適していると思われます。都合よく村に自動車修理工場もありますから…。
チキチキを見事に再生させた技術力や、トゥルーリーが怒って帰るシーンで適格な操作によりエンジンをかけたことなどからも自動車についての知識は豊富だと想像できます。
また、すでに30シリングで売却済みのゼッケン3を先客に断わりなしに(しかも期限を1日延長して!)ポッツ氏に売ったコギンス氏の対応や、ジェレミーらを敷地内で自由に遊ばせていることからも、ポッツ氏との関係が特別なものであったと思われます。
これは僕の妄想ですが、ポッツ氏とコギンス氏の間に、技術協力と引き換えに部品他の資材供給や若干の対価の支払いがあったのではないでしょうか?
さらに妄想すると、コギンス氏は、廃品業者の手によってゼッケン「3」が鉄塊に変わるより、ポッツ氏によって再生される方が車のためだと思い、ポッツ氏の購入に対して融通を利かせたのではないかとも思っています。
ジョージとは誰か?
ポッツ氏がコギンスガレージから「ゼッケン3」を持ち帰る際に手伝った「ジョージ」。この人物は、ポッツ氏とどういう関係にあるでのでしょうか?
ポッツ氏とジョージの関係を解き明かすことで、ポッツ氏と村人たち、特に農夫たちとの関係が見えてくるのではないかと考えています。
ものすごく基本的な確認ですが、ジョージはコギンスに雇われていたのでしょうか?
ポッツ氏は30シリングを集めるだけで大変だったのに、さらに手間賃を支払ってまで牽引してもらうはずはないでしょう。
また「家が火事でも、タバコの火も貸さない」といわれたコギンスが、サービスで自宅まで届けさせるとも考えれられません。
ということは、この配達はポッツとジョージとの取り決めによりおこなわれたものと思われます。
このシーンではひとつ気になっているセリフがあります。
「Many Many Thanks. Jeorge!」
ポッツがジョージに言ったお礼の言葉です。 あえて訳すと「どもどもありがとー、ジョージ!」でしょうか?
この口調から年齢はジョージの方が上に見えますが、ポッツの方が立場が上ともとれますよね。
このねじれた関係はどう説明されるべきなのでしょう?
一旦、諸々の背景を考えず、冷静に二人のやり取りを見てみます。
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ゼッケン3を運転するかのように登場するポッツ。
カメラが引くと、実は馬車に引かれている。
おじいさんとあれこれ話し、車を押すポッツ。
ポッツ:「ジョージ、手伝ってくれ!」(だったかな?)
ジョージも押す。その後ろに人さし指で押すおじいさん。
三輪自転車(これ興味深いですね。後日考察したいです)を
どかすポッツ。工房に車が入る。
ポッツ:「Many Many Thanks. Jeorge!」
ジョージ退場。
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この通りポッツはジョージに対して友達のように接しているといえます。 その反面、ジョージに友達に接するような態度は感じられません。
むしろ、かなり従順であり、もっというと舎弟的な匂いもあります。
カギはここに隠されているんでしょうねー。
バック・トゥ・ザ・フューチャー3で、1885年の西部にタイムスリップした ドクが鍛冶屋を営んでいたと聞いた時はなるほどと思いました。
今日的なサイエンスの知識が直接活かせない時代であっても、 鍛冶屋であれば、物理や化学の基礎知識や工作力を活かせる。
理屈に合っているな、と…。
このことから(とするのは少々安易ですが) ポッツ氏の裏仕事(というか、実質的に収入の多くでしょうから本業?)が鍛冶屋かそれに類するものだった可能性は高いと考えられます。
これに、自動車修理の手伝いを時々はさんで生活費の稼いでいたのではないでしょうか?
具体的には、農具や馬車の修理などが想像されます。他に、ある程度の工作力と設備を必要とするような仕事なども…。
ポッツ氏の家に「発明家」の看板はあっても「鍛冶屋」のそれは見当たりませんから、きっと村にはちゃんとした鍛冶屋もいたでしょう。
さすれば、本家の営業妨害にならない程度の軽い仕事だとか、鍛冶屋とコギンズ自動車修理店のすきまを埋めるような
仕事が中心だったと思います。 で、そういう半端仕事をリーズナブルな価格で請負い、仕事の腕前は確かだったのでしょう。
村人から信頼され、感謝され、困った時には、村人らがすすんで手を貸してくれる。
そういうポッツ氏と村人らの良好な関係が想像されます。
きっとジョージも同じ気持ちだったのでしょうね。 だからこそポッツ氏がコギンスの店でスクラップカーを買ったと知った彼は、仕事の手を止めてまで馬車で家まで牽いてくれたのです。
ジョージが村の農夫であり、ポッツ氏が裏仕事として「鍛冶屋的な何でも屋」をやっていたのでは…と書きましたが、
これは妄想の域を抜け出ていません。
メルヘン気味な妄想と大胆な仮説は楽しみとして大事にしていきたいところではありますが、やはり少ない証拠をつなぎ合わせて、大多数が納得できる答えを見つけ出すのが考証学の醍醐味です。
そこで「ジョージの一件も本編にしかない」と考え、また観ていました。いやー、本編です。本編観てなんぼですねー。
ジョージがスクラップを引かせていた馬(全身黒で、右前足以外の先端部が白)が、コギンスガレージにいるじゃないですかぁ!
さらによく観れば、ジョージとコギンスの衣装もよく似てるし、ふたりは深い関係、ひょっとしたら兄弟ではないでしょうか?
そうだとすれば、年齢が判断しにくいんですが、ジョージが弟なんでしょうね。
おじいさん【バンジー・ポッツ/Bungie Potts】
『チキチキバンバン』に登場するキャラクターの中でも口の悪さはナンバー1!
「あいつが?自宅が火事でもタバコの火も貸さん男だ」(コギンスを評して)、「どうせ動きはせん」「動いたら最後、止まらなくなるぞ」(届けられたスクラップ車を指して)等々ひどいものです(笑)。
また、スクラップ車を押した時も人指し指1本で手伝うなど人を喰ったような態度だったのが思い出されます。
その反面、初めてポッツ邸を訪れたトゥルーリーに対しては帽子を脱いで 軽くウインクをするなど、非常に紳士的な面も見受けられました。
女王陛下や准将閣下に対する深い敬意もウソではないと思います。
非常にねじ曲がった性格だとは言えませんか?
良いにつけ悪いにつけ、親の性格は子どもに決定的な影響を与えると思うのですが、ポッツ氏の性格に目を向けると「おおらか」「一生懸命」 「何ごとも気にしない」など、
おじいさんの性格からはまず想像できない理想的な性格と言って差し支えないと思います。
血のつながった親子ではない、とでもいうのでしょうか?
そんなおじいさんですが、ポッツ氏の発明のこととなると うって変わって非常に寛容であるように思えます。
夕食のシーンで調理マシーンが茹で卵を出した時にも あの毒舌家が文句ひとつ言わなかったし、ポッツ氏がチキの開発に入ると「パパは邪魔が嫌いだよ」とすすんで子どもの相手をしてました。
工房に隠る直前に言った「ほどほどにしておけよ」の言葉も発明となると食事も摂らずに没頭するポッツ氏を気遣ってのことではないかと思います。 実はやさしい面もあるんですね。
なのにどーして「どうせ動きはせんよ」と突き放したような態度に出たりするんでしょう?
たぶん、おじいさんって典型的なジョンブル野郎(イギリス人)として 性格付けられてるんでしょう。
こだわりが凄く、皮肉屋で、なんでもケチ付けずにいられないけど、その反面、 内心は親切で情にもろい。
女性に対してはあくまでも礼儀正しく、王室や上官への忠誠も絶対。
バルガリアのスパイ二人組がイギリスへの上陸直後にイギリス人のフリをするシーンがありますが、あの時にカリカチュアされてたような典型的なイギリス人と考えればだいたい納得できます。
このように複雑なイギリス人の内面は単純なバルガリアの連中には理解できないんでしょうね(笑)。
ジェレミーとジェマイマNEW
ポッツ家の子供たちの名前については、ずっと手がかりが無い状態でしたが、図書館の児童書コーナーで、ふと子供が見ていたある絵本を手にとってみると、そこにジマイマというキャラクターがいるのをみつけました。
それはイギリスの児童文学の古典の一つであるピーターラビットシリーズで、その中に「ジマイマ」というアヒルがいたのです。
「ピーターラビット」の作者はイギリス人のビアトリクス・ポター。1866年生まれで1943年没、まさにチキの時代を生きた作家です。
その代表作(といっても他の作品は知りませんが)に「ジマイマ」とは。。。
ひょっとしてジェレミーもと思ってピーターラビットのコーナーを探してみると、ありました!
カエルが主人公の『ジェレミー・フィッシャーどんのおはなし』(ピーターラビットの絵本17)。原題[THE TALE OF MR. JEREMY FISHER]
ピーターラビットに登場する「ジマイマ(ジェマイマ)」(右)と「ジェレミー」(左)のお話。ちょっと興味ありますよね。
『あひるのジマイマ』の主役、アヒルの「ジマイマ・パドルダック」は、原作者のポター(本当はポッター:potterですが、出典に習いポターと表記)の農場で飼っていた卵をかえすのが苦手なアヒルがモデルになっています。ジマイマの性格はモデルそのままで、卵を上手にかえせないため卵を取り上げられ、代わりにニワトリが温めています。それが不満で、森の真ん中の“ある紳士”のすみかで産卵させてもらったのです。ジマイマにとっては、とても親切な紳士なんですが、実はキツネで、卵を狙って親切にしただけ。
おまけにアヒルの丸焼きまで狙っていたのです。それに気付くどころか、「おいしいオムレツをつくる」と材料まで用意させられる始末。
ついでにアヒルの丸焼きの材料も(笑)。といっても、決して馬鹿なのではありません。
罪のない純真さと、人を疑うことを知らないまっすぐな性格がそうさせるのです。
おお!チャイルドキャッチャーの「お菓子無料作戦」にやすやすと引っかかったジェマイマ・ポッツがダブってしょうがない…(汗)
そして『ジェレミー・フィッシャーどんのおはなし』の主役、カエルの「ジェレミー・フィッシャー」は、原作者のポターの父の釣り仲間がモデルで、のんびり屋というか少々天然気味な性格で、魚を釣りに行ったのに逆にマスに食べられそうになった上に釣り竿をなくし、来客に魚料理を出せなかったりと、物語的には気の毒でとても見ていられない内容でした。
この辺りもトゥルーリーに学校をさぼったことを話せと促されながら、車がスクラップにされると見当違いなことを言った天然小僧ジェレミー・ポッツを思い出させました(笑)。
この2匹がポッツ家の双子のモデルだという直接の証拠はないんですが、チキの原作者のフレミングは鳥に興味を持ってたんで(「ジェイムズ・ボンド」という名前は愛読書『西インド諸島の鳥』の著者から拝借したというのが定説) 、ピーター・ラビットシリーズをパラパラと見てるうちにアヒルに目が止まり、その名前を頂いて、次は、半ズボンをはいてるジェレミー・フィッシャーどんの挿絵を見てそれをもう一人の男の子の名前に使ったことは充分、考えられます。
ひょっとしたら、ピーター・ラビットシリーズに目が止まったきっかけも、ジェイムズ・ボンドのリバースでカラクタカス・ポットという名前を考え付き、その子供の名前はどうしようか?……、と考えてたときに、ポットとビアトリクス・ポッターとの類似に気づいたからかもしれませんね(笑)。