『神々のたそがれ』解説とあらすじ

もう30年ほど前になると思うが、ソ連のSF映画で、アンドレイ・タルコフスキー監督の「ストーカー」を見た。これが傑作、興奮した記憶がある。政府が立ち入り禁止にした「ゾーン」と呼ぶエリアがある。「ゾーン」には、願いが叶うという部屋があるらしい。厳重な警備の目をくぐって、「ゾーン」を案内するのが「ストーカー」である。科学者と作家が、ストーカーの案内で、「ゾーン」の部屋を目指す。

原作は、ストルガツキー兄弟の小説「路傍のピクニック」。映画の脚本もまた、この兄弟が担当した。このストルガツキー兄弟が、1964年に書いたSF小説「神様はつらい」を原作にした映画が、このほど公開となる。「神々のたそがれ」(アイ・ヴィー・シー配給)だ。

2000年、監督のアレクセイ・ゲルマンが、「神様はつらい」を下敷きに、映画化を図る。ゲルマンの映像は、計算され尽くした雑然さ、混沌さのなか、徹底的に細部にこだわる。製作には長い時間がかかる。ほぼ完成した2013年、アレクセイ・ゲルマンは亡くなる。最後の仕上げは、アレクセイ・ゲルマンの妻スヴェトラーナ・カルマリータと、息子のゲルマン・ジュニアである。

原作のSF小説は読んでいないが、映画を見て、とにかく、驚いた。舞台は、アルカナルという、ある惑星の都市。ここは、地球の800年前ほどの文明で、地球でいうと、ちょうどルネサンス初期にあたる。ここに地球から、科学者や歴史学者などの調査団がやってくる。20年ほど経過しても、アルカナルにはルネサンスのような状況は起こらず、ドン・レバ大臣の支配下、大学は破壊され、知的な人物は狩られ、賢者や読書家、技術者たちが処刑される。王の親衛隊は無力で、知識人たちの処刑は、大臣の指揮する灰色隊が行う。

まるで、スターリンの粛正、毛沢東の反右派闘争や文化大革命を思わせる構図である。原作の書かれたのは1964年である。軍拡を推進したフルシチョフは、1962年のキューバ危機の後、失脚した年である。引き継いだブレジネフ政権は、アメリカに対抗して、アフガニスタンに侵攻する。

知識人狩り、処刑、権力闘争と、映画は、徹頭徹尾、凄惨な表現に終始する。観客は、モノクロームだからこその画面に、想像力を働かせることになる。雨が降り続いている。泥だらけの道。家畜がうろうろ。奇妙な鎧に身を固めた兵士たち。処刑された人たち。さらに、夥しい血や人間の内臓と思えるものまで。ちょうど、ヒエロニムス・ボスの三連祭壇画「快楽の園」右側に描かれた「地獄」を想起する。

アレクセイ・ゲルマンは、なぜ、ここまでの凄惨な表現をするのだろうか。劇中、地球から派遣された学者のひとりのドン・ルマータが言う。「抑圧者は絶えず現れる」と。これは、SFでもフィクションでもないのではないか。大勢の人間がいる以上、常に、抑圧者は現れ続けるのである。凄惨な表現に託したのは、あまりにも愚かな人間への警告ではないかと思えてくる。強い者、権力者が、弱い者を抑圧する。弱い者が団結して、強い者を倒しても、弱い者のなかのマシな者が権力を手にし、さらに弱い者の抑圧に向かう。まことに「神様はつらい」のである。

【あらすじ】

とある惑星にある王国の首都アルカナル。地球より800年ほど進化が遅れている。城らしき建造物は、地球のルネサンス初期を思わせるが、アルカナルはルネサンスとは全く無縁。ここに、地球から学者たちが送り込まれてくる。

アルカナルには、いつも雨が降っている。道は泥だらけ。犬やニワトリが走り回っている。みすぼらしい公衆便所があり、道はずれには、火が焚かれている。ネズミもたくさん、いる。首に枷を架けられた者が大勢、処刑されたままの死体が、あちこちにぶらさがっている。

アルカナルでは、大学が壊され、知識人狩りが日常茶飯事。多くの知識人が処刑され、隣国のイルカンに逃亡する者もいる。処刑を指揮するのは大臣のドン・レバ(アレクサンドル・チュトゥコ)で、グレイの制服を着た「灰色隊」を率いている。灰色隊のメンバーは、主に家畜商人や雑多な品を扱う商人たちである。地球から来た学者のひとりがドン・ルマータ(レオニード・ヤルモルニク)である。ドン・ルマータは、アルカナルの異教神ゴランの私生児と言われ、住民たちはどことなく恐れているが、知識人狩りの混乱に口を挟む権限はない。

イルカンに逃亡したのは知識人だけではない。農民の抵抗を指揮するアラタや、鉱山で苦役についていた奴隷たちもいる。ドン・ルマータは、追われている知識人たちを匿っている。イルカンから派遣された医師ブダフ(エヴゲーニー・ゲルチャコフ)が、ドン・ルマータのもとへ向かうことになる。その道中で、ブダフたち一行は、行方不明になる。

ブダフは、王の膝の病を治療することになっている。ドン・ルマータは、国王とドン・レバの前で、ブダフたちを連れ去ったのはドン・レバだと言う。王は、ブダフを連れてくるよう、ドン・レバに命じる。ドン・レバが連行したブダフは、じつはニセモノである。

ある夜、ドン・ルマータは灰色隊の急襲を受ける。灰色隊の隊長は、ドン・ルマータに絞首刑を言い渡す。どこからか、修道僧の軍団が現れる。やがて、ドン・レバの仕組んだ謀略が明るみに出る。

それでも、アルカナルの現実は変わらないだろう。抑圧者は次々と現れ、抑圧を繰り返すだけである。アルカナルの凄惨な戦闘が始まる。

<作品情報>

「神々のたそがれ」
3月21日(土) 渋谷ユーロスペースほかにて全国順次ロードショー
配給:アイ・ヴィー・シー