有名SM映画『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』解説とあらすじ

イギリス、ロンドン在住の主婦ELジェイムズが、ネットで小説を書き、これを基に小説を刊行する。「フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ」と「フィフティ・シェイズ・ダーカー」、「フィフティ・シェイズ・フリード」の3部作である。アメリカの女子大生アナスタシア・スティール、通称アナが、若くして成功を収めた実業家クリスチャン・グレイにインタビューしたことから、二人は惹かれあう。やがて、若き実業家の倒錯した「性」の秘密が明らかになっていく。

ソフトなタッチの、いわばポルノである。一般女性の夢や願望、秘めていた性への欲望が、巧みに綴られ、ここに実業家の歪んだ嗜好が加味される。2012年、アメリカでの出版以来、世界じゅうで翻訳され、この3部作の部数は合計1億部という。日本でも、早川書房から刊行され、第1部の「フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ」は、単行本で上・下2巻、文庫版で上・中・下の3巻である。この騒がれた小説を、2年ほど前に、単行本で読んだことがある。

これは、女性には大受けだろうと思った。ソフトなSM描写、大富豪の瀟洒な生活描写もさることながら、小説のあちこちに登場する車、パソコン、クラシックやオペラ、フランク・シナトラからポップス音楽、映画、小説、ファッション、酒などなど、いかにもと思わせるネタばかりが、まさに適材適所、絶好のタイミングで登場してくる。

なにしろ、グレイは容姿端麗で教養豊かなお金持ち、クルーザーを保有し、グライダーを操縦する、ピアノの腕も達者。女性なら、こんな男と出会いたいと誰しも思うに違いない。当然のように、映画になる。とりあえずは、シリーズの第1部、原題そのままの「フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ」(東宝東和配給)である。

映画の見せ場のひとつが、グレイとアナの性描写である。SM描写はソフト、嫌悪感は覚えない。男性が見ても、若い女性の心理、生理がきちんと描かれていて、分かりやすい。すでに、「エマニエル夫人」のシリーズや、ミッキー・ローク主演の「ナイン・ハーフ」、ラース・フォン・トリアー監督の「ニンフォマニアックVol.1、Vol.2」(イズムで紹介)などをご覧になった方には、格別、過激で異常な描写ではない。

試写を、公開日2月13日の前日、12日に見た。映画は、ほぼ原作通りの状況で進行する。長い原作の細部を、もちろんカットしているが、原作のここぞという場面は、2時間5分ほどの映画に、うまくダイジェストされている。

27歳で大富豪になったグレイは、英文学を専攻している女子大生アナからインタビューを受ける。やや異常な性癖を持つグレイだが、純朴なアナに興味を持ち、アナもまた、グレイに惹かれていく。グレイは、アナにいくつかの契約を提示する。アナは、秘密を守るという契約を交わすが、さらに密室でのさまざまな「行為」をめぐっての契約が示される。戸惑うアナは応じない。経験豊富なグレイは、アナを夢のような世界に誘い、さらに「行為」の契約を要求する。

女性にとって、大富豪のグレイは、まるで夢のようなことを現実にしてくれる。最新のパソコンや、高級な車、トマス・ハーディの「テス」の初版本セットなど、金に糸目をつけないプレゼントを繰り出す。これで参らない女性は、まず、いないだろう。アナは、グレイと過ごすうちに、グレイが想像する以上に、変貌を遂げる。グレイもまた、過去に出会ったことのないタイプのアナに興味を示す。そして、徐々に、グレイの秘められた過去が明るみに出ようとする。

グレイの過去については、小説の第2部「フィフティ・シェイズ・ダーカー」で明らかになる。本作が大ヒットするなら、いずれこれも映画になることだろう。タイトルの「フィフティ・シェイズ」は、50の影でもあるし、顔、人格のことでもある。具体的は意味合いは、映画のラスト近くで語られる。

主役のアナをダコタ・ジョンソンが演じる。幼い風貌の「少女」が、徐々に艶やかな「女性」に変貌する過程を力演する。ダコタ・ジョンソンは、男優ドン・ジョンソンと女優メラニー・グリフィスの娘である。なるほど、巧いはずだ。設定が27歳の大富豪グレイ役は、ジェイミー・ドーナン。ソフィア・コッポラ監督の「マリー・アントワネット」に出演した売れっ子のモデルである。ここでは、支配欲に満ちたクールな役を、冷静に務める。また、少しの出演だが、グレイの義母役でマーシャ・ゲイ・ハーデンが出ている。

原作は、女性の書いた小説である。映画も女性が監督を務める。「ノーウェア・ボーイ ひとりぼっちのあいつ」を撮ったサム・テイラー=ジョンソンだ。長い原作のエッセンスを巧く引き出した脚本もまた、女性の手になる。「ウォルト・ディズニーの約束」を書いたケリー・マーセルだ。

見た人の人生を変えるというほどではないが、少なくとも、一般庶民の夢や願望、性への憧れ、知的なお膳立てを、うまく組合わせた巧みな映画。ひとときの夢を、たっぷり与えてくれる。これもまた、映画の効用だろう。

あらすじ

ワシントン州のバンクーバー。女子大生のアナスタシア・スティール、通称アナ(ダコタ・ジョンソン)は、親友の作る学生新聞の取材で、シアトルに向かう。アナは、大学に多額の寄付をしている若き大富豪クリスチャン・グレイにインタビューする。時間はたった10分。うまくいかない。それでも質問書には、すべて、メールで答えてくれる。恋愛経験は皆無のアナは、威圧的だが、容姿端麗で礼儀正しいグレイに魅せられる。グレイもまた、純朴そのもののアナに惹かれる。

グレイは、アナのアルバイト先の金物店に現れる。結束バンド、マスキング・テープ、赤いロープを買う。アナは、インタビュー記事の写真が欲しいとグレイに申し出る。グレイは、快く引き受ける。グレイはアナに質問する。アナは、父を亡くし、母は4人目の夫と住んでいることなど、身の上を話す。

アナがトマス・ハーディを研究しているのを知ったグレイは、アナにプレゼントを送る。なんと、「テス」の初版本のセットで、カードに作中の引用が添えられている。「男ってものはあぶないって、なぜお母さんは言ってくれなかったの? お嬢さん連中は、こんな手管のことを書いてある小説を読んで、身の守り方を心得ているけれど…」(早川書房・池田真紀子訳)。

グレイは、自家用のヘリを用意して、アルバイト先のアナを、シアトルの豪華なペントハウスに誘う。そこに用意されていたのは、2通の契約書である。ひとつは、今後、ふたりの間に起こることは、絶対に口外してはならないという秘密保持の契約書。もう一通には、支配するグレイ側から書かれたもので、従属する女性が守らなければならないルールが、事細かに書かれている。

睡眠・7時間は眠ること。食事・定めた食品を規則正しく摂取。衣服・支配者の許可し、買い与えた服装のみ。エクササイズ・週4回のトレーニング。他にも、衛生・美容、安全、行動、違反したときの罰則規定と、まことにきめ細かい契約書である。

アナは、秘密保持の契約にサインをする。グレイは、秘密のプレイルームにアナを案内する。ここは、グレイと契約を結んだ女性とグレイが、戯れる秘密の部屋である。グレイは、アナの素朴な質問に答える。ある過去の出来事から、女性は恋愛の対象ではないこと、また、女性を完璧に支配する形でしか関係が持てないことなどを。恋愛経験のほとんどないに等しいアナは、驚き、ためらう。グレイは、アナに、もうひとつの契約を迫る。アナがまだ未経験と知ったグレイは、アナをベッドに誘う。

やがて、アナの秘めていた欲望を、グレイが引き出していく。グレイもまた、いままでの女性との支配とは異なる形で、アナを扱うようになっていく。グレイの要求は、アナの考える普通の恋愛とは異なり、アナは戸惑い、悩む。グレイもまた、異常な形でしか女性と接することができないことに苦悩する。アナとグレイの関係は、果たしてどうなるのだろうか。

<作品情報>

「フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ」
配給:東宝東和
©2015 Universal Studios.
公式サイト